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北森ペット病院


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2018年3月13日 (火)

インフォームドコンセントの難しさ・キット診断について②

北森ペット病院・北森です。当院ブログをご覧頂き、感謝いたします。


本日は、インフォームドコンセントの難しさ・キット診断についての②です。キットの検査結果の解釈が如何に難しいか、獣医師のほとんどが誤解してる問題です。


感度90.6%、特異性98.5%のインフルエンザキットを、流行期の冬と、非流行期の夏に使用して、陽性が出た場合の陽性的中率を比較します(ちなみに数値は、鼻水を使った時の某社のA型に対するキットの性能)


町の小児科に1000人の患者が来院して、キット検査を実施したとします。

● 冬の陽性的中率

冬は、流行期ですから、インフルの有病率が高いはずです。例えば50%の人がインフルだったとします。そうすると、1000人中500人がインフルエンザです。500人のインフルエンザ患者中、キットで陽性になる人は、感度90.6%ですから453人です。非インフルエンザ患者は1000-500=500人です。非インフル500人中、キット陰性になる人は、特異性98.5%ですから492.5人、逆に陽性になる人は7.5人です。

この場合、陽性的中率は
453÷(453+7.5)×100=98.4%

● 夏の陽性的中率

夏は、非流行期ですから、インフルの有病率が低いはずです。例えば1%の人がインフルエンザだったとします。そうすると、1000人中10人がインフルエンザです。10人のインフルエンザ患者中、キットで陽性になる人は、感度90.6%ですから9.06人です。非インフルエンザ患者は1000-10=990人です。非インフル990人中、キット陰性になる人は、特異性98.5%ですから975.15人、逆に陽性になる人は14.85人です。

この場合、陽性的中率は
9.06÷(9.06+14.85)×100=37.9%

今回は、分かりやすく有病率を冬の50%と夏の1%で比較しましたが、同じキットを使っても、そもそもの有病率に例えば季節差があれば、結果の意味合いも違うし(夏にインフルキット使っても意味ない事がある)、もともと有病率の低い疾患にキットを使う場合には注意が必要ということです。

癌マーカー(キット)が、今だ一般的でないのも、陽性的中率が低いからです。癌の有病率はそもそも人口当たり0.5%程度です。しかも、マーカー(キット)は、良くて、感度は80%、特異性90%程度です。


10000人が人間ドックで、癌マーカーの検査をしたとします。有病率は0.5%です。潜在患者は50人です。このうちキットが陽性になる人は、50人×0.8で40人。健常者9950人のうちキット陰性になる人は9950人×0.9で8955人、逆に陽性になる人は9950-8955で995人です。

陽性的中率を計算すると、
40÷(40+995)×100=3.86%

つまり、感度80%、特異性90%の一見精度の高そうなキットを使っても、陽性になった場合の、実際の陽性率は、3.86%なのです。こんな腫瘍マーカー検査なんて、ドックでしませんよね(マーカーの意味は後述)。


ちなみに、今回の話のインフルエンザの有病率は、たぶんこんな感じかな程度です。言いたいことは、キットの特異性が100%でない限り、陽性=陽性ではないのです。

つづく


北森ペット病院
http://kitamori.in.coocan.jp/

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