癌の治療Ⅴ 転移について
北森ペット病院・北森です。当院ブログをご覧頂き、感謝いたします。
今回は、癌の治療Ⅴ、転移についてです。
先回、ヒトのがん治療の戦略は
① 遺伝子変異に対する治療
② 癌の免疫回避システムに対する治療
③ 癌幹細胞に対する治療
④ 転移システムに対する治療
という話をしました(悲しいかな、獣医療では、戦術の進化はあるが、ヒトの医療の様に進歩はしていないと言う話もしました)。
上記の④に関するお話です。
癌の転移は、どのように起こるのでしょうか?
癌細胞は、初期には誤解を恐れずに言えば、運動性がなく個々の癌細胞が塊を形成しています。そして、塊は、正常組織に覆われています。
一定期間を経過し、癌の塊が大きくなると、一部の癌細胞は、周りの組織を溶かし、性質が変化し(専門用語でEMTといいます)、運動能を獲得します。
運動能を獲得した癌細胞は、組織から血管に出て全身をめぐるのですが、多くはNK細胞を主体とする免疫細胞に排除されます。しかし、早期に脱出したもの、血管の内側に張り付いたもの、血小板などと結合したものは、免疫機構を巧みにかいくぐり、血管側から、ターゲットとなる臓器・組織へ入り込み、転移が完成されます。
最近では、癌細胞が出すマイクロRNA(miR-181c)が、脳の血管壁を変化させて、癌細胞の血管からの侵入を助けているという報告があります。
EMTを起こす前・・・・つまり、癌細胞が転移能を獲得する前の、出来る限り早期に治療するのが有効というのは、こう言った理論からきています。
(以前、癌もどき・癌放置論というものがありましたが、如何にそれが間違った理論であるかわかります。確かに発生初期は『もどき』かもしれませんが、性質が変化していくのが癌なのです)
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