飼い主の皆様、ブリーダー様、感謝致します。
北森ペット病院・北森です。当院ブログをご覧頂き、感謝いたします。
この度、某学会から、ボクサー犬の心筋症に関する講演の依頼を受けました。私は、その学会の会員ではないのですが、昨年出した文献が認められての依頼です。
もともと循環器の企業研究者だったことから、臨床にきてすぐにこの謎の心筋症に興味を持ちました。20年前の事です。この心筋症は、ヒトとボクサー犬と、極めて稀に猫にしか発生しない、珍しい疾患です(ヒトでは若くしての突然死の主要な疾患の一つ)。
データを取るための、高性能エコー、ホルター心電計数台、心電図解析ソフトを10年くらいかけてようやく揃え(だって茂原では中古の家が買えるくらいの価格ですから)、当時の手持ち資金を全て投入して、臨床研究・調査に着手しました。
そもそもボクサー犬自体の飼育頭数が少なく(JKC登録で200頭程度)、ボクサー犬でも数割程度しか発症しません。
やる気になったのは良いですが、初めは症例がまったく集まりませんでした(おそらく、99.9%の先生は出会ったことが無い疾患だと思います)。
しょうがないので高名なブリーダーを介してボクサー犬をかたっぱしから集めました。他県に出張したり、そのブリーダーを介して関東圏から来院してもらったり、地方のボクサークラブの協力を得たりしました。
症例は年々増えて行きましたが、論文に決定的に必要だったの、遺体でした。この疾患で死亡した犬の心臓がどうしても必要だったのです。
ヒトの医療と違い、獣医の世界で献体を提供頂くのは、極めてまれです(不審死に対する司法・行政解剖のような法律もありません)。
調査を始めて、5年目くらいに、ようやく先に記したブリーダーさんを介して献体頂けました。そのブリーダーさんは、夜中に、埼玉からわざわざ死亡した犬を茂原まで運んでくれました。本当に頭が下がる思いでした。
計画から十数年、最近ようやく論文を2報出すことができました。もし10年早かったら、医学部の研究生にでもなって、遺伝子導入でこの心筋症を治すような画期的な研究をしたかったのですが、若さとお金が底をついているので、諦めました(凡人ですから)。
でも、皆さんの協力を得て、少しは獣医学に貢献できたなと思います。
全て無料で行った為、まったく経営には貢献致しませんでしたが、病院の心エコーの技術、心電図解析の技術は格段に進歩したと自負しています。また、この研究が縁で、素晴らしい獣医循環器専門医の先生、画像診断医、日本を代表するような世界的な企業の病理研究者との出会もありました。
形になったもの以上に、臨床獣医師として眼に見えない財産を得ることができました。
本当に、飼い主の皆さん、ブリーダーさん、クラブの皆さん、そしてワンちゃん、ありがとうございました。
北森ペット病院(千葉県茂原市)
http://kitamori.in.coocan.jp/
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