ひとは常に合理的な判断はしない(怒られた実例)
北森ペット病院・北森です。当院ブログをご覧頂き、感謝いたします。
人は、常に合理的な判断はしない! の実例です。
4年前、孤立性の皮膚型リンパ腫(T細胞型)になった犬の話。
孤立性なので、外科的切除が適応で、手術は、パーフェクトでした。
さて、その後、抗がん剤は効かないので、癌の治療自体は終了する旨を伝えました。
抗ガン剤の治療は、体に負担のかかる薬剤を投薬するわけですから、メリットとデメリットを考えて、選択しなくてはいけません。
その、もっとも分かりやすい指標は、生存率の改善です。
当時、世界の文献を調べても有効な抗がん剤はなく、念のため、国内の専門医((アジアに5人しかいません)の後輩に聞いてみても、やはり、抗がん剤の必要ないとの意見でした。
それを伝えたのですが、
この方は、怒って転院されました。
どうやら、癌の認定医(専門医より格下。沢山います。)がいる病院に電話をかけて、まだできることはある・・・・と言われたそうで、
えらい剣幕で怒られました。
は~でしたね(笑)。
実はこれ、良くある光景なんですよね。
行動経済学的にいえば、
飼い主側は、損失回避行動と、利用可能性ヒューリスティック
獣医師側は、プロ故のバイアス行動(成功体験や、男性医師のリスク選好志向)
です。
(飼い主側)
人は、恐怖や死を意識したときに、1%でも健康を維持できるとしたら、大きな損失があったとしてもその選択肢を選ぶ傾向があります。これを損失回避行動といって、リスク愛好家になる瞬間です(要するに、ほぼ意味がなくても、わらをつかむ行動)。
また、人は、身近な情報や、自分で手に入れた情報(先生からではなく、自分で先生を見つけて聞いた情報)に、より真実味を感じます(利用可能性ヒューリスティック)。
本来は、データをもとにしてしっかりと選択すべき場面ですが、こうなっては、私ども、もどうすることもできません。
セカンドオピニオンを考えた時に、主治医を通して専門医に紹介する。専門医・・・ここでは認定医の説明を、主治医が噛み砕いて飼い主に説明するながれですが、
この場合は、セカンドオピニオンではなくて、転院です。結局、怒られて終わったわけです。
ちなみに、医療者側のバイアス行動は、有名な2つの研究があって
・より専門医の方が、効果が少ない療法でも推奨する傾向がある
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24921911
・癌の治療は、ガイドライン逸脱が45%
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12826639
ようするに、飼い主も、獣医師側も、常に合理的な判断をするわけではないということですね。
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